苦しいときはこの人に甘えるのがいちばんで、まず美耶を押しつけておいて、「お母さん、うちしんどい」と訴えれば、喜和はすっかり呑み込んでいて笑いながら、「それは夏病み夏病み。この店のもん、綾子の好きなだけ食べてみなさいや。そしたらすんぐに治る治る」
と子供をあやすようにいってくれらば事実そのとおり、田舎では口にできぬ美味ですっかり満腹したあとはふしぎに元気が湧いてくるようであった。
(仁淀川/宮尾登美子)
違和感
この小説「仁淀川」は、作家宮尾登美子さんの私小説です。
この本の主人公「綾子」は、そのまま宮尾さんと読み替えて差し支えないほど、宮尾さんの半生が生き生きと綴られています。
宮尾さんは作家としてすごく遅咲きな方で、執念の47歳でようやく本格的に作家として歩み始めた人です。
私はその執念を尊敬していて、また宮尾さんの小説のヒロインたちも皆それぞれ一途さががひしひしと伝わってくるので、宮尾さん御自身もヒロインたちも、等しく大好きで憧れています。
ただ、この綾子たけは、どうにも甘え、幼さが目につき、私は好きにはなれませんでした。
思いつくまま周りを見ずに行動したり、わがままで独善的で…
たびたび無鉄砲な行動を取る綾子ですが、これは真の宮尾さんの姿なのか、それともわざと「下げて」書かれているのか、私の読解力でほわからないところです。
綾子のことが苦手、でも、綾子の取る行動を妙にリアルに、既視感をもって感じている自分がいて、この綾子は、現代人だからなのだと思い至りました。
親に盾突き、おいしいものがたくさん食べたくて、おしゃれもしたくて、めんどくさいことは嫌い。
これは現代に生きる日本人の一般的な行動ですし、もちろん私に似ているところも多くあったのでした。
生まれる時代を間違えたひと
宮尾さんは、まさに生まれる時代を間違えただと思います。
現代に生まれていれば、この方はいわゆる普通の女子高生、または女子大生であったことでしょう。
それくらい考え方や行動が今風であると感じました。
この方は、今ならば多少我の強い子、ぐらいの評価で済んでいたはずです。
現代の女子大生が何十年も昔にタイムスリップしたような、これはそんな本なんだと理解したとき、私は綾子が苦手ではなくなりました。
世界を変える人というのは
今の境遇に満足しなかった宮尾さんと、田舎に生まれ農業一筋に生き抜いた姑、いち。
宮尾さんのようなひとは、生きづらさを抱えながらもその時代荷足りないものを求め続け、ついには世界を少し変えてしまう。
時代にそぐった人たちは、それなりに心地よく生きていけるけれど、何も残さない。
世界というものは、「生まれる時代を間違えたひとたち」が、前に進めてきたんだなぁとおもいました。



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