「武田のおばさん」は、中年女性が集団になった時に発するキンキンした甲高い声で話すことがなかったし、おばさん特有の何かを押し隠したような曖昧な微笑みを浮かべることもなかった。
ふんわりとした優しそうな雰囲気に不似合いなパキパキしたハマっ子言葉を話す。
まわりとのお付き合いはちゃんとするけれど、ベタベタ連なって行動するのは嫌いらしく、用事が済むと、「それでは、お先に失礼いたします」と、一人でさっさと群れから離れる人だった。
「武田のおばさん」には、いつも、ゆとりと豊かさが感じられた。だけど、それは、いわゆる「お金持ちの奥さん」とは、ちょっと違う雰囲気だった。
まだ主婦の大半が、夫の出世と子供の受験だけを見つめて生きていたあの時代に、もっと広い大人の世界を知っているような感じがした。
(日日是好日/森下典子)
寄りかからないひと
この本「日日是好日」は、作家の森下典子さんが永くお茶を習ってきた中での気づきが、人生の出来事に絡めてゆったりと語られています。
そのなかで、森下さんのお茶の先生である、武田のおばさん、に対する描写がすてきなので紹介します。
すてき、といっても、この方はキラキラしていたり、リーダーシップがあるわけではなくて、「すごく普通」です。
すごく普通のおばさん、だけどちょっとした所作がほんの少し違うだけで、こんなにもすてきな印象となるのか、と思いました。
この、武田さんは、精神的に自立した方。
寄りかかっていない感じがします。
お茶を通じてそんな精神性まで習得できてしまうものなのか、この方の素質なのか、お茶を習ったことのない私にはわかりません。
普通にしているのにすてきだなんて、どんな特別さよりも一番に求めるべき素養なのかなと、素直な気持ちで考えています。



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