鏡台の前や、お茶を飲んだ後のテーブルの上でさらさらと詩を書き上げると、Aに向かって少し自嘲気味に言ったという。
「私の仕事はコマーシャルだから。作詞ってボールペンと紙さえあれば書けるから、元手はまったくいらないのよ。」
(安井かずみがいた時代/嶋崎今日子)
ものを書く仕草って、すごくかっこいいと思います。
しかもこの時の安井さんは、男と逢っている合間にさらさらとひと仕事終わらせています。
それは確実に才能なのだけれど、男の前では恥じらいをもって隠してしまうつつましさ。
令和に生きる身から見るといじらしくって、そんなに才能があるのだから、もっともっと見せびらかしたらいいのにと思うほどです。このひとの、恋愛ベタな人生と煌びやかな才能とのギャップが愛おしい。
含羞、というか、あり余る才能を持っていることを、惚れた男の前で恥ずかしがってしまうひと。
あればあるだけ見せつけることがむしろ美徳な今の人間からは、拍子抜けするほどの慎ましさです。
ものを書いているときの、真剣さ、無防備さ、知的さ。ただでさえそういう雰囲気が好きなのに、そこに加わる物語があると、もうとりこになってしまいます。



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